2010年10月29日金曜日

『葦折れぬ』-2

 
 
【夜明け】

十六夜の月影は
西空の屋根の上で
疲れて、一面に漂っている。

オリオンが
必死にもがきながら
ずるずると傾いていく。

巨大な獣の断末魔のような重苦しい叫びが
月光に煙る空をどよもして
冷たい静寂(しじま)が震動する。
お聞き――

あれは冬の一夜を
大空に君臨した
グレート・オリオン
あえぎながらの最後の呻き。

だがやがて
オリオンの巨影が地平線の下にひきずりこまれたあとには
その最後の呻き声の余韻は
たくましい朝の雑音に変わっていくのだ。

ピシッ
どこかで大地が凍みわれる。

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前述の「千野敏子 葦折れぬ」の詩から一編載せてみました。かなり激しい情感が伝わって来るものでした。

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